相談者:建設会社社長
あらたに東京都の建設業許可を取得することを考えています。経営業務管理責任者の要件を満たす人が社内にいないので、経験者を外部から招き入れる必要があります。経営業務管理責任者は「取締役登記」されている必要があると思うのですが、新しく招き入れる人を「取締役」に就任させることが難しいです。執行役員に就任させて、執行役員の地位で、経営業務管理責任者として、建設業許可を取得することはできないのでしょうか?
回答者:行政書士
株主の意向や社内の事情で、外部の人材を「常勤の取締役」に登用することができないケースもあります。そういった場合でも、執行役員を経営業務管理責任者として建設業許可を取得する方法はあります。通常の「登記された取締役」の場合と異なり、イレギュラーな申請になりますので、様々な社内規定や資料を提出する必要があります。
建設業許可を取得するには、「経営業務管理責任者」が必要です。そして、「経営業務管理責任者」は、登記された取締役であることが求められています。まずは、この大原則を理解して頂く必要があります。
他方、登記された取締役でなくても「執行役員」としてのポジションで、「経営業務管理責任者」になり、建設業許可を取得することも不可能ではありません。ただし、上記の原則とは異なり、登記されていない「執行役員」を「経営業務管理責任者」として建設業許可を取得するという例外的なケースであるため、通常は必要とされていない資料や書類の提出を求められたり、事前相談・事前確認が必要になるなど、許可取得への道のりは、各段と険しくなります。
そこで、このページでは、取締役ではなく執行役員のポジションで建設業許可を取得したいという人のために、どのような資料や書類が必要になるのかを詳しく解説させて頂きます。なお、東京都の建設業許可を取得することを前提に説明をいたします。他府県の場合、要求される資料や手続きが異なるかもしれませんので、その点については、あらかじめご了承ください。
【目次】 | |
---|---|
1 | 経営業務管理責任者の意味・要件 |
2 | 執行役員を経営業務管理責任者にするには |
3 | 執行役員を経営業務管理責任者として、建設業許可を取得したい方へ |
経営業務管理責任者の意味・要件
「執行役員を経営業務管理責任者として建設業許可を取得することができるか?」という本題に入る前に、建設業許可を取得する際に必要な「経営業務管理責任者」の意味・要件について、解説いたします。なぜ、建設業許可を取得するには「経営業務管理責任者」が必要なのか?そもそも、経営業務管理責任者とは、どういった人を指すのか?といった理解が、「取締役ではない執行役員を経営業務管理責任者にして建設業許可を取得することができるか?」という点に関連してきますので、まずは、基本事項の確認からしていきたいと思います。
経営業務管理責任者の意味
まず、経営業務管理責任者とは、「建設会社における建設業部門の最高責任者」であるというように理解してください。もちろん代表取締役であれば、「建設会社における建設業部門の最高責任者」ということができますので、経営業務管理責任者になることができます。仮に代表取締役ではなく平取締役であったとしても、その平取締役がその会社の「建設業部門の最高責任者」ということであれば、その平取締役が経営業務管理責任者になることもできます。
建設業しか行っていない会社の場合には、それほど問題になりませんが、たとえば「運輸部門」「警備部門」「IT部門」「建設業部門」といったように複数の業務部門に分かれている会社を想像してみてください。必ずしも代表取締役が「建設業部門」の最高責任者というわけではありませんね。「運輸部門」には運輸部門の責任者としての取締役、「警備部門」には警備部門の責任者としての取締役、「IT部門」にはIT部門の責任者としての取締役、「建設業部門」には建設業部門の責任者としての取締役がいるでしょう。
この場合は、建設業部門の責任者としての取締役が、経営業務管理責任者になり、建設業許可を取得することになります。
経営業務管理責任者の要件
経営業務管理責任者が「建設会社における建設業部門の最高責任者」であることが理解できたとして、どういった人が「経営業務管理責任者」になることができるのでしょうか?もちろん、誰でも「経営業務管理責任者」になれるわけではありません。ここが、建設業許可取得が難しいと言われる所以です。
経営業務管理責任者になるには、以下の3つの条件を満たしていることが必要です。なお、このページでは、説明を簡潔にわかりやすくするため「個人事業主としての経験」については、説明を割愛させて頂きます。
経営業務管理責任者になるための3つの条件 | |
---|---|
ア | 申請会社の常勤の取締役であること |
イ | 取締役(または個人事業主)としての経験が5年以上あること |
ウ | その5年間、建設業をおこなっていたこと |
ア.申請会社の常勤の取締役であること
「経営業務管理責任者」は、「建設会社における建設業部門の最高責任者」でした。であれば、その会社に「常勤」していなければなりません。建設業に限らず、会社の○○部門の責任者として、対内的にも対外的にも責任を負う者が、その会社に「常勤」しておらず、他の会社に常勤(もしくは勤務)しているということは、あり得ませんね。
そのため、経営業務管理責任者は、申請会社の「常勤」でかつ「取締役」であることが必要です。
イ.取締役(または個人事業主)としての経験が5年以上あること
「経営業務管理責任者」には、過去の「経営経験」も求められます。建設業許可を取得すると500万円以上の工事を請負・施工することができるようになります。「500万円以上」ということは、「1億円」も「10億円」も「100億円」の工事も、請負・施工することができることを意味します。建設業許可は、それほどインパクトのある許可になるわけですが、いままで法人・個人を含め、経営経験のない人に、このような建設業許可を与えると、経営経験が乏しいゆえに、会社の倒産・法令無視・財務状況の不健全・手抜き工事といったさまざまな弊害が発生するリスクが高くなります。
多数の人たちが利用する建物を建設したり、公共工事を行う建設会社が、このような状態では、安心した社会活動を行うことができなくなってしまいます。それゆえ、経営業務管理責任者になるには、少なくとも過去5年間の経営経験を求めているわけです。
ウ.その5年間、建設業をおこなっていたこと
イの要件と関連しますが、イの5年間の経営経験は、どんな業界の経営経験でもよいわけではありません。イで要求される取締役としての5年以上の経験は、「建設業」である必要があります。そのため、仮に「製造会社で5年以上取締役をやっていた」「飲食店で5年以上取締役をやっていた」「IT会社の取締役を5年以上やっていた」という経験があったとしても、イの条件を満たすかもしれませんが、ウの条件を満たさないため、経営業務管理責任者になることができません。
これは、建設業が複数の下請業者からなる「多重階層型」の業界であることや、工事が完成するまでに長い年月が必要であることといった特殊な業界であるため、異なる業種での経営経験ではなく、あくまあでも建設業界での経営経験を求めているということが理由に挙げられます。
経営業務管理責任者の通常パターン
もし御社の中に上記ア、イ、ウの条件を満たすひとがいれば、その人を経営業務管理責任者として建設業許可を取得することは可能です。これは、建設業許可を取得する際の通常パターンで99.9%の会社が、こういった手法で建設業許可を取得しています。
執行役員を経営業務管理責任者にするには
それでは、執行役員を経営業務管理責任者にするには、上記ア、イ、ウのうち、どこに問題があるのでしょうか?執行役員を経営業務管理責任者にする場合、「ア:申請会社の常勤の取締役であること」の条件のうち、「取締役であること」という点が問題になります。なお、経営業務管理責任者は、申請会社に必ず常勤しなければならないので、この場合の執行役員とは「常勤の執行役員」であることが前提になります。
このように、アの条件のうち「取締役であること」の例外にあたるわけですから、執行役員を経営業務管理責任者にして建設業許可を種痘するには、「当該執行役員が取締役と同等であること」、もしくは、「申請会社における建設業部門の最高責任者であること」を証明できれば、当該執行役員を経営業務管理責任者として建設業許可を取得することができそうです。
本来であれば、経営業務管理責任者になるには「申請会社の(常勤の)取締役」であることが必要ですが、仮に執行役員のポジションであったとしても「取締役と同等」「建設業部門の最高責任者」に該当すれば、登記された取締役ではなかったとしても経営業務管理責任者になることができるのです。
それでは、執行役員が「取締役と同等であること、もしくは、申請会社における建設業部門の最高責任者であること」は、どういった資料で証明して行けばよいのでしょうか?以下では、実際に行政書士法人スマートサイドが、東京都の建設業許可取得に成功した実績を元に、必要書類について、説明をしていきます。
1.組織図
まず、申請会社の組織図です。この組織図では会社全体の組織がどのようになっているのか?を確認します。例えば
- 取締役会設置会社であること
- 取締役の直下に執行役員がいること
- 建設業部門があること
- 建設業部門の責任者に執行役員がいること
といったことなどが必要です。
他府県では、どうかわかりませんが、東京都の場合は、執行役員を経営業務管理責任者にするには「取締役会設置会社」でなければなりません。取締役会設置会社でなければ、執行役員を経営業務管理責任者にすることができないのです。
また、取締役会もしくは取締役の直下に執行役員のポジションがなければなりません。経営業務管理責任者は、「建設会社における建設業部門の最高責任者」でした。本来であれば、登記された取締役であることが要件なわけですから、取締役ではない執行役員が経営業務管理責任者になるには取締役と同等かもしくは、建設業部門の最高責任者であることが必要です。
そうであるにもかかわらず、執行役員が取締役の直下におらず、「取締役→部長→執行役員」といったような権限配置の組織図になっていた場合。これでは、この執行役員が「取締役と同等かもしくは、建設業部門の最高責任者である」ということができません。
また、組織図内に建設業部門があること、そしてその建設業部門のトップに執行役員がいることが必要です。
2.業務分掌規程
業務分掌規程という言葉は聞きなれない言葉かもしれませんが、Googleで検索してみると、検索結果に、ひな型が出てくるので一度見てみるとよいかもしれません。
業務分掌規程とは、会社の組織内で「部門ごとの職務の内容や責任範囲」をまとめた内部文書のことです。
例えば
- 運輸部門の業務、役割、責任、権限
- 警備部門の業務、役割、責任、権限
- IT部門の業務、役割、責任、権限
- 建設業部門の業務、役割、責任、権限
- 人事部門の業務、役割、責任、権限
といったように、会社内部の「どの部門」が「どういった業務」を遂行し、その役割と責任と権限を明確に定めた規定です。こういった規程があることによって、会社組織の運営の透明性が高まるとともに、効率的な業務の遂行が可能になります。
業務分掌規程で注意して頂きたいのは、建設業に関する部門は、建設業の全てを掌握していなければならないという点です。たとえば、建設業に関する資材調達のみを行うとか、建設業の技術者の労務管理のみを行うという部門だと、仮にその部門の責任者たる執行役員であったとしても、建設業部門の最高責任者には該当しません。
建設業部門と言えるためには、申請会社の建設業におけるすべての分野(工事請負契約の締結、資材調達、資金管理、施工管理、技術者の労務管理など)を、その部署が担当していることが必要になります。
3.取締役会規則
取締役のほかに執行役員を置く会社は、取締役会規則において、
- 執行役員の選任の仕方
- 執行役員の任期
- 執行役員の権限
- 執行役員の責務
について記載されているのが通常です。執行役員は、会社組織上、取締役に次ぐ地位にあるわけですから、取締役会によって、選任・任命されて、その職務を全うします。そのため、取締役会規則には、上記のような「執行役員の選任・任期・権限・責務」に関する規定がなければなりません。
4.執行役員規則
取締役会規則と同様に、執行役員規則も重要になってきます。会社組織上、執行役員というポジションがある以上、執行役員について定めて執行役員規則があるのも通常です。執行役員に任命されたら
- どのような任務を負うのか
- 報酬などの待遇はどうなるのか
- 任期は何年なのか
- 取締役の指揮命令のもと、誠実に職務を行うこと
といったような執行役員に関する決まり事が、なければなりません。
5.取締役会議事録
上記の取締役会規則や執行役員規則に則って、「建設業部門の最高責任者たる執行役員に○○が選任された」旨の、取締役会議事録が必要です。執行役員は取締役会によって、選任されることになるのが通常だと思いますが、たとえば「取締役会規則に則り、取締役会を開催し、取締役の過半数の賛成を経て(=会社内の手続きを滞りなく踏んで)、正式に執行役員に任命された旨」の、取締役会議事録です。
以上、「1~5」まで、必要書類を上げてきましたが、重要なのは、きちんと整合性が取れていることとともに、当該執行役員が取締役と同等もしくは申請会社における建設業部門の最高責任者と評価するにふさわしいといえるかどうか?という点です。
組織図などの資料を準備すれば、必ず、執行役員が経営業務管理責任者として認められるというわけではありませんので、注意が必要です。
執行役員を経営業務管理責任者として、建設業許可を取得したい方へ
以上、見てきたように、執行役員を経営業務管理責任者として建設業許可を取得することは不可能ではありません。行政書士法人スマートサイドでは、実際に東京都の建設業許可で、執行役員を経営業務管理責任者にして建設業許可を取得した実績があります。
一方で、執行役員を経営業務管理責任者にして建設業許可を取得するのは、あくまでも例外パターンです。このページの最初に説明したように、経営業務管理責任者になるには、「ア:申請会社の常勤の取締役」であることが原則だからです。
そのため、「取締役会」が設置されていない会社においては、執行役員を経営業務管理責任者にすることはできないようです。また、取締役の人数が2~3名、家族経営の小規模会社、設立したての会社については、そもそも、執行役員ではなく、取締役でなければ経営業務管理責任者になることができないともいえそうです。
なぜなら、取締役の人数が2~3名の場合や家族経営の小規模会社の場合、わざわざ「執行役員」を置く必要がないという点が挙げられます。また、設立したての会社についても、経営業務管理責任者は取締役に就任させるべきであって、執行役員として待遇するという理由が薄いように感じます。
建設業法の改正により「執行役員でも経営業務管理責任者になれる!」「経営業務管理責任者の要件が緩和された!」という主張のもとに建設業許可を取得することが簡単になったというような誤解を招きかねない情報もネット上には氾濫していますが、決して、要件が緩和されたわけでも、建設業許可が取得しやすくなったわけではありません。
このページで説明してきたように、執行役員を経営業務管理責任者にして建設業許可を取得するということは、例外(イレギュラー)なのですから、そうせざるを得ない根拠や、証拠となる資料を提示しなければなりません。
もし、みなさんの会社で、どうしても、外部の経験者を「取締役登記できない」「株主の賛成が得られない」「社内手続き上、執行役員として処遇するしか方法がない」という人がいれば、ぜひ、下記、問い合わせフォームから行政書士法人スマートサイドまで、お問い合わせください。
執行役員としてのポジションで建設業許可を取得することが可能か否かを、御社の状況に則して、判断させて頂きます。